1 FSU工法の概略

1-1 なぜFSU工法なのか  ― 説明を兼ねて ―

建築は資源の採取、エネルギーの消費、廃棄物の産出等で、どうしても環境に負担を強いてしまいます。FSU工法は、せめて自分が関与する住宅や建築だけでも、環境への負荷が少ない、むしろ負荷を削減する方向に作用させたいと、独自に開発した、木造軸組の新工法です。一般的な在来工法の3~4倍という木材の大量使用で、林業の活性化を図り、森林整備を進め二酸化炭素の吸収を増大させ、それを更に木材の生長期間以上、建築に固定させ続けるため、使用後の建築の解体部材も容易に再使用できる仕組みとした、木造の新しい建築工法です。
この工法は建築生産時の人件費や新建材の使用を抑制することで、通常以下のエネルギーと建築費で、生産が可能になるよう工夫されています。都市空間に森林(二酸化炭素)を溜め込む=forest stock in ueban spaceの頭文字を並べてFSU工法と命名しています。
工法としての新しさには、建築物としての新しさと、造り方の新しさの二通り有しています。


 

建物としての新しさは、端的にはその壁にあります。
本来、木造建築の場合、構造壁(躯体)の構成は、構造上の柱を半間(0.91m)又は一間(1.82m)の間隔を置いて立て、その間に耐力を担う筋交い(斜材)や間柱を立て、中は空洞もしくは断熱材が充填されます。その躯体の内外にボードや合板下地を貼り、その上に仕上げが施されます。現場で多くの手間がかかります。
それを、FSU工法の場合は、写真のように柱と同寸の無垢の角材を隙間なく連結したパネルを持ち込み、建て並べ、それだけで壁の構造躯体であり、気密や水密材、さらに防火材でもあり、内外の仕上げ材にもなる工法です。故に壁内が木で満たされた構造となり、木の持っている蓄熱性能や調湿性能を最大限活用できる室内環境が実現できます。
しかもその壁は90㎝内外の幅にパネル化されていて、組み立てだけでなく、解体や再組み立ては、パネルを固定するピンの抜き差しで容易に可能です。屋根や床もパネルになっていて、再使用を前提としているため、建築廃棄物を削減して環境負荷を低減します。

造り方としての新しさは、事前に工場で、軸組だけでなく、壁や屋根等も、仕上げまで含めて、可能な限りパネル化して現場に持ち込まれ、建具及び家具、あるいは設備機器の取り付けも、事前にパッケージ化しておいたものを、現場に持ち込み、それを数人の多能工のグループで工事を行う、職人不足の建築現場に対応した工法です。
パネル製作も大掛かりなものでなく、それぞれの地域のプレカット工場もしくは製材所又は建具工場に設置した簡易な機械で生産できるもので、地産地消に適した生産が可能です。

1-2 FSU工法の開発と実施経緯
  • 東日本大震災による応急仮設住宅で解体再使用が容易な住宅として採用59戸建設
  • 釜石森林組合と岩手県森林組合連合会が、開発応援、実践機会を提供
  • 再建者住宅及び各地の通常住宅として技術の開発と実践及び洗練化
  • 60分準耐火の認定や構造評定等の技術開発と法的整備で繰り返し漸進


1-3 FSU工法の構造と技術特性
  • 木造在来軸組工法に属し、金物(プレカット)工法の一種
  • 耐力壁は柱と同様の角材(105角~240角可能)をボルトで連結した耐力壁パネルで構成。通常910モデュール寸法の柱間に耐力壁(LSパネル)を挿入
  • 壁パネルの耐力は各角材に孔削した連結用の16φの孔に、16φのボルトを通すことで生じる各角材間のせん断耐力で確保
  • 柱、桁、梁等の軸組は通常の金物工法と同様のプレカット工場で加工
  • 耐力壁パネルは工場加工生産(軸組プレカット工場以外でも可能)
  • 壁パネルの横架材との固定はホールダウンパイプや薄板プレート金物
  • 各角材間には実材を挟み込み、気密水密及び延焼止めを確保
  • 各壁パネルの一部に電気配線スペース組み込みあり(2芯ケーブル程度)
  • 屋根、床は在来工法と同様、屋根は通常サンドイッチ断熱パネル使用
  • 柱も耐力壁としてボルトで束ねた形状の壁パネルも製作可能(Lパネル)
  • 製作に資本投資や特殊機材不要


1-4 建て方順序

基礎立ち上がりに土台敷き
⇒一階柱建て
⇒柱間に壁パネルを順次上から挿入
⇒パネル両端の柱との間に実材を挿入
⇒桁材のパイプ穴にパネルの柄パイプ等を挿入しながら載せて固定
⇒二階床梁桁設置
⇒二階柱建て込み
⇒二階床合板敷き込み
⇒以下一階と同様の作業を繰り返し
⇒屋根受け桁・梁設置、屋根パネルを設置の上、長ビス等で固定
⇒建込み完了

1-5 FSU工法の法的認定・評定の規格と利点
  • 構造用の外壁及び間仕切りの耐火試験の上、国交省60分準耐火構造外壁及び30分防火構造外壁並びに構造用準耐火間仕切りの認定取得(計6種類)
  • 建築確認申請許容応力度計算用に耐力試験データ取得のうえ構造評定取得
  • 3階建て特殊建築物や内部木部あらわしの木造準耐火建築物可能
  • 壁パネルで使用の各角材は105角~240角まで可能
  • 現場で必要な職人作業が大幅軽減され、工期短縮が可能
  • 建築物が使用後不要になっても、解体が容易で解体部材が再使用可能
耐力試験 2m・3m
(構造評定用)
構造外壁・間仕切り耐火試験
(準耐火認定用)


1-6 FSU工法住宅の蓄熱性能と調湿性能



FSU工法でつくる場合、壁の中が空洞ではなく木材で充填されていますので、材料的にはより高価な構成であるということが言えます。そのため、在来工法の場合より躯体としての熱容量が大きく、暖冷房で所定の温度にするのに時間(日数)がかかりますが、一度その温度に達すると、蓄熱性能によりその後の温度変化が他の工法のものに比して少ないことが確かめられました。また木材の持つ調湿機能で、冬は結露が少ないうえに過乾燥になりにくく、夏も多湿になりにくいことが私たちの比較実験で実証されました。写真はその温湿度実験のデータを得るために作った3棟の小屋です。一番奥が在来工法、真ん中がFSU工法で外部面に断熱材と下見板を貼ったもの、手前がFSU工法の12cm角のパネルを内外表しのままの木材だけの小屋です。

それぞれ内部に写真のような、800ワットのヒーターで夕方6時から12時まで毎日温め、水盤も毎日一定量になるよう取り換えました。その結果が上のグラフです。FSU工法の住宅が在来工法の場合より、かなり温度と湿度の変化が少ないことが読み取れます。
尚、12㎝角のパネルの場合、そのままの仕上げ無しでの断熱性能はスタイロホーム30㎜厚と同等の性能を有しています。

2 FSU工法の建築特性

  • 工法の汎用化のため、木造軸組構造外壁と間仕切り壁で、国交省の30分の防火構造及び60分の準耐火構造の認定を取得しており、又誰もが構造計算(許容応力度)が可能となるように、確認審査機関で耐力試験を行い構造評定も取得しています。
  • 防火指定地域(防火地域、準防火地域)以外の市街化地域で、内外にボードを貼ることなく、木造躯体現し木造準耐火構造の建築(3階建て3000㎡以内の特殊建築物等)が可能です。
  • 部材はプレカットやパネル工場で事前加工されて現場で建て込むため、木材量が多い(従来木造の3~4倍)割に現場施工の手間が少なく、在来工法より短工期で建てることができ、これからの木造の建築に対応しています。建込みと屋根パネル敷設迄まで、習熟した二棟目以降なら1日で可能です。
    サッシさえ取り付ければ、外部から水密気密を確保した木造スケルトンの空間が数日で実現可能です。
  • 部材の殆どを工場加工することで、現場での職人の作業を削減し、職人不足に対応でき、これからの木造建築に適した工法です。
  • 解体と部材の再使用を容易化するために考えられた工法で、部材は循環型単一素材の一般流通木材で構成され、全国どこでも誰でも大げさな資本や工場がなくとも地産地消が可能な工法となっております。
  • 壁パネルは芯々910㎜の柱間に入る幅のモデユールになっていて、外壁のピンを外して横架材を持ち上げると全ての壁パネルが取り出せ、全解体が可能になり、その部材(壁パネル)を他の現場で再使用できます。
  • 居住性では熱容量が高いため、一度温めたら冷めにくく、高い調湿機能を有し、過乾燥やジメジメしにくい内部空間となります。
  • 空間は躯体現しの場合、化学物資の少ない健康的な空間となります。内部に塗装や和紙クロス等の直張り仕上げも可能です(下、その事例写真)。

3 FSU工法で建物が建つまで

  • 山林で伐採された丸太から120~150角程の角材に製材
  • ⇒乾燥釜にて含水率15%に乾燥⇒乾燥後2ケ月程屋根の下にて自然乾燥
  • ⇒105又は120角に製材もしくはモルダーで滑らかにサンダー(カンナ)掛け

 

  • ⇒軸組材は金物工法プレカット工場(Lパネル用柱材は削孔後壁パネル工場へ)
  • ⇒壁用角材に雇実用溝加工(モルダーで溝同時加工可能機械もあり)
  • ⇒一方の端部切断済の各角材に連結ボルト用穴削孔(穴数パネル種類で異なる)

  • ⇒雇(やとい)実(さね)を所定寸法に製作

 

  • ⇒パネル端部の角材の穴にボルトナット埋め込み用座掘り

 

  • ⇒角材溝に雇実を嵌めその上に次の角材を載せて実材に嵌め込む作業繰り返し
  • ⇒角材+実材+角材+実材+角材…途中に調整材(70角)ありで8~9本積み上げ

 

  • ⇒角材+実材+角材…に端部ねじ切り頭付ボルト必要本数を挿入後締め付け
  • ⇒角材連結パネルを所定長さにカット(最初にカット済の角材使用も可)

 

  • ⇒カット済壁パネルにホールダウンパイプ及び枘パイプの固定ピン用穴を削孔
  • ⇒壁パネル上端と下端から同上パイプ挿入用穴を角材繊維方向の中心に削孔
  • ⇒壁パネル完成

 

  • ⇒現場に壁パネルと軸組プレカット材(パイプと梁受け金物込み)を同時に搬入

 

  • ⇒事前にアンカーボルト埋め込んだコンクリート基礎に軸組材の土台固定

 

  • ⇒柱材及び各パネル上下にホールダウンパイプ及び枘パイプ挿入ピン固定
  • ⇒土台のパイプ用穴に柱材及びLパネルのパイプを挿入、建て込みピン固定
  • ⇒一階分各壁パネル壁全てを柱間に挿入建込み、ピン固定

  • ⇒雇実材をパネルと柱間の溝に、上から挿入(押し縁は建込み後装着)
  • ⇒軸組の横架材の穴に各パネルのパイプを嵌め込みつつ横架材落とし込み固定

  • ⇒二階床用の全梁桁(横架材)を架け(この間一階大引も可能なら設置)
  • ⇒二階梁上に床下地合板を載せてビス留め固定で剛床設置
  • ⇒二階柱及びLパネルを一階と同様に建込み
  • ⇒二階壁パネルも一階と同様に柱間に建込み

 

  • ⇒二階横架材(梁・桁)を柱と壁パネル上に落とし込み、登り梁及び小屋組み設置

 

  • ⇒屋根(断熱材込み)パネル又は垂木等で屋根下地設置して躯体スケルトン完成

 

  • ⇒屋根仕上げ葺き(断熱材込み)・外回りサッシ取付け・外壁(断熱材共)仕上げ

 

  • ⇒設備用配管、電気用配線後一階床下地合板設置
  • ⇒押し縁固定・必要天井下地と仕上げ
  • ⇒床仕上げ・間仕切り開口部枠廻り造作・家具・建具・塗装等通常仕上げ工事
  • ⇒設備機器取付け、電気照明器具取付け
  • ⇒完成引渡し

 

4 FSU工法を薦める理由

森林組合や製材所等材木関係者が壁パネルまで製作供給した場合
  • 壁パネルまで製作することにより付加価値を創出でき、収益向上になる。
  • CLT工場のような大げさな設備投資も機械も必要ない。
  • 木材の加工販売だけから、壁パネルや屋根パネル等の内外の加工部材や装備品製作へと業務領域が広がり、多角化が可能になる。
  • さらに最初のパネル建て込みまで可能になれば、躯体提供専門事業者として、事業の拡大が可能になる。
軸組プレカット事業者が壁パネルや屋根パネルまで製作した場合
  • 壁パネルの製作によって、他のプレカット事業者との差別化が可能になり顧客である工務店へ独自に工法まで提案でき、営業がし易くなる。
  • 既存の工場機械の活用でき、新たな生産機械の導入が殆ど不要である。
  • 工場の閑散期に作り置きが可能のため注文の増減に対応が容易になる。
  • プレカット材と壁パネル、場合によっては屋根パネルまで生産出来れば、輸送がまとめられて輸送経費の削減になる。
  • 上記同様、躯体提供専門事業者として事業の拡大が容易である。
内装工務店がスケルトン供給を受け、インフィル専門事業者に特化の場合
  • プレカット及び壁パネル製作事業者に軸組だけでなく構造外壁から間仕切り壁までのスケルトン部材の製作委託で職人不足に対応可能になる。
  • 基礎工事中にプレカットができ、内外壁と屋根の躯体が2日で完了、インフィル工事も多能工化した職人の取付け工事で収益向上と工期短縮できる。
  • 殆どの部材が工場加工となり、加工場不要で生産の合理化ができる。
  • 内壁に石膏ボード貼り不要で木造躯体壁現しが可能なため、内外装や家具設備等で独自の工夫が可能になり他社との差別化ができる。
工務店が壁パネルも製作してスケルトン建て込みを専業化した場合
  • プレカット事業者と連携することで、作業の専業化が進み、慣れることで生産性と質が大幅に向上できる。
  • 現場作業が短期間で、手離れよく、毎回似た工事で、予定も立て易い。
  • 躯体以外の、屋根パネルやオプション部材生産及び内装工事等に向けることもでき、収益向上が図られる。
  • 他の工務店からの躯体工事依頼だけでなく、DIY、デベロッパー、教育施設や社会福祉施設及び店舗オーナー、ホームセンター、内装工事者、一人大工等スケルトンだけ等新たな市場開拓ができる。
  • 繁忙の場合、他社の壁パネルを使用したスケルトンの建て込みだけの専業化の業態も可能である。